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『願ひ華』が出来るまで… その2

2008.03.03

○ 制作その3~レコーディング~

 アレンジャーさんからデータを貰ってすぐに、吉野さんへの資料作りのために仮歌を歌いましたが…ここでちょっと問題発生。事務所さんから事前に頂いていた歌キーにそって制作したんですが、改めて歌ってみると相当キーが高い事に気がつきまして…。男性としては結構歌キーが高い私でも、サビあたりではいっぱいいっぱいになってしまうのは大丈夫なのか?と。一応頂いた内容を確認してみても間違いは無かったので、そのまま仮歌を録り提出させて頂きました。結局現場でキーを下げる事になったんですが、吉野さんには本当に申し訳ないことをしてしまったと後悔しております。

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 収録スタートから歌キーの問題もあって、割とゆっくり時間を掛けながら…いろいろな事を確認しながらの収録となりました。「歌は苦手で…」と仰る吉野さんと、歌詞を一緒に見ながらお互いが持つイメージと表現の方向性について細かく相談させて貰いました。唯一こちらからお願いしたのは歌い方の部分。

「耳元で囁くように…
 一語づつそっと置くようなイメージで」

 これまで「幕末恋華シリーズ」の歌曲を6曲ほど担当させて貰いましたが、個人的に一番難しい曲がこの『願ひ華』だと思っています。その原因の一つがこの歌い方。力を抜きつつピッチを維持して、尚且つ感情を込めて歌うことは、想像するよりずっと難しい事です。ノリや勢いを重視して力任せで何とかなる曲ではないし、その方がよっぽど楽な場合もあります。しかも当日現場で歌キーの変更もあった事で、吉野さんには相当な負担を掛けてしまいました。それでも諦める事なく長い時間マイクの前に立ち続け、自身の持つ歌キー上限近くをキープしながら力を抜き感情を込めて歌うという…とても難しい作業をこなして貰う事で、「下」に向かう静かな気持ちやED曲らしい雰囲気をきっちり表現して頂きました。アレンジの方向性についても、以前から一度はやってみたかった個人的趣味を最優先させて貰いました。その曲の最後の大切なパーツが吉野さんの歌だった訳です。個人的にはサビも好きなんですが、それよりやっぱりこのAメロの歌いだしが一番気に入っています。変に飾ることなく自然にすっと届くような歌い方で、初めてAメロを聞いたとき「そう、これ、これが欲しかったんです!」と心の中で叫び、鳥肌が立ちました。余計な力を極力抑えて一言一言、頬に触れる吐息のように静かにやさしく…この歌い方があってこその、『願ひ華』だと信じています。

 余談ですが、歌曲を制作する際、事前に他の作品での歌を確認したりしない私は、「こんな歌い方の吉野さんは意外」というユーザーさまの声を耳にして、正直とても驚きました。偶然とはいえ、最初にこんなアプローチが出来てよかったな…と。同時にサビに入れ込んだ『恋華ren-ka』のフレーズにも概ね評価を頂いた様で…やっと一安心出来たのが、実はつい最近だったりします。

○ 総括~振り返って思うこと~

 OPよりもこのEDの評価が、正直とても気掛かりでした。『恋華ren-ka』のサビの一部をそのまま入れ込んだことで生じるであろうメリット・デメリットを考えて呆然とする時間が増えたのも事実です。「考えすぎ」と言われればそれまでですが、やっぱりとても心配でした。同時にキチンとユーザーの皆様の事を考えて制作にあたっていただろうか…今でもやっぱり私の中で明確な答えは出ていません。ただとにかく精一杯…私に出来る精一杯を一生懸命頑張ったのは間違いありません。「恋華シリーズの最後」を飾る作品として、そのED曲として…やれる事の全てを注ぎ込みました。正直信じられないくらい苦しい時期もありましたが、今は『願ひ華」のアウトロのように、静かで穏やかな気分です。

 この曲を作った事で改めて実感出来た事がひとつ。作詞・作曲担当の私の仕事は、何も無い所に小さな芽を出す所までで…その後水や肥料や陽の光を与え枝を伸ばし葉を広げ、美しい華を咲かせてくれるのはいつも、歌い手さんやスタッフさんなんだということ。そして完成した曲を聞き好きになってくれて…対価や評価という栄養を与えて更に華を育ててくれるのは、他でもないユーザーの皆様のお陰であるということです。前作発売から3年もの長い間、「期待」という水や陽の光を与え続け、この「恋華」という華を守って育ててくれたのは、やっぱりユーザーの皆様だと実感しています。本当に本当に有り難う御座いました。

 前作発売の時、某時空を越えてしまう有名作品と発売日がモロ被りし「これは結構まずいんじゃ…戦車に竹やりで向かっていくみたい」と個人的に心配した事も、今ではいい笑い話です。「幕末恋華」という大きな看板は、私にはまだ重くて身分不相応な所もありますが、それでもこのお仕事に参加出来て良かったと今では心から思います。そしてこの場を借りて関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。本当にいろいろ有り難う御座いました。

『願ひ華』が出来るまで… その1

2008.02.28

 この間東京でも雪が降ったと思ったら、あっという間に春一番だそうで…ころころ変わる季節の中、皆様如何お過ごしでしょうか? 中学生の時、古物商の父が手に入れた真剣(同田貫)を持たせて貰い、その信じられない重さにびっくりした浅乃です。刃を真上に向けてティッシュを落としたら、刃に触れた途端スッパリ切れてしまったのを見て心底怖くなりました。「花柳」の登場人物達も、こんな重いモノを振り回していたんですね…。

 さて、今回は『幕末恋華・花柳剣士伝』のED曲である『願ひ華』が出来るまでを前回同様ゆるく書いてみます。相変わらず読みづらい上に面白みもない文章が続きますが、どうかご容赦下さい。

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○ 寺山Dからのオーダー

 「前作のイメージを残しつつ、エンディングらしい曲を」というオーダーだった気がしますが、細かい指示内容が思い出せないんですよね…。キチンと話し合いの時間は持ったハズなんですが、やっぱりいろいろ切羽詰っていたんだと思います。OPがリズムのある前に進む曲なので対照的に緩やかな…所謂「エンディングらしい曲」を作ることなり、OPに予定以上の時間を掛けてしまったので、休む間もなく続けて制作を開始しました。

○ 制作その1~作曲~

 この段階ではOPの作曲が終了しているだけで、作詞も何も一切手付かずだったので結構焦りまくりで作業開始。この先に残っている作詞作業は私にとって最も不得意な分野で、いつも余計に時間が掛かることは確定しています。なので当たり前ですが睡眠時間を削りながら鍵盤にかじりついていました。記憶が曖昧ですが、OPとは違いAメロからサビに向けてメロを作っていったと思います。前作曲『恋華ren-ka』との距離感については、OPである程度の目安というか…自分なりの「覚悟」みたいなモノが持てたので、それほど苦痛ではありませんでした。と、いうよりは、もうそんな御託を並べている余裕は無かったというのが適切な表現かもしれません。一音一音を長めにゆったりと…そんな意識を持って制作された初期のデモでは、現在のようにサビが『恋華ren-ka』と同じではありませんでした。

 出来上がったデモを聞きながら酷く悩みました。そのなんとも言えない収まりの悪さに何度も頭を抱え原因を考えましたが、結局OP同様「距離感」の問題なんだと実感。何ていうんでしょうか…とても中途半端だったんです、個人的に。思わせぶり…というにはあまりにも色々届いていない気がして、もう一度サビを弄り回した結果「これが最善…」という判断で、『恋華ren-ka』のメロの一部をそのまま使用する事にしました。他の作品では出来ない、最初で最後の一回こっきりの必殺技。正直とても怖い決断であると同時に、変な感覚なのかもしれませんが「あ、3年前の自分に負けた気がする」と妙な敗北感を味わいました。この判断に至る理由は色々ありますが、大きな部分は私のユーザー様への「甘え」なのではないか…と、最近はこんなふうに思う時があります。そして同時に、「幕末恋華のEDはやっぱり『恋華ren-ka』…」という強いイメージを持っているのは、スタッフの誰よりも、作った私自身なのだと…当たり前な事を実感しました。

 勿論私なりに真剣に良いと思われる結果を十分考慮した上での判断ですし、間違いでは無かったとも思っています。『恋華ren-ka』のサビの中で一番強い印象とメッセージを持つ一節をそのままの形で加えることで、シリーズとしての統一感やED曲としての収まり具合もこちらが思い描いていたモノになったと思っていますが、サビを弄る前に感じた「不安感」は結局別の形になって、作業を終えた現在も大きな「課題」となって私の中に残っていたりします。そしてこの最善と判断した私のアプローチをどのように捉えどんな感想や評価を頂けるのか…それは聞き手である皆さんそれぞれにお任せしたいと思います。

○ 制作その2~作詞~

 サビを『恋華ren-ka』と同じにした事で、ある程度の自分の中の「制限」が解除され作業自体はスムーズに進みました。「これは前に使ったから…」といった発想自体をスッパリ切り捨てて、より効果のある言葉を優先的に当てはめて「近づきすぎちゃいけない!」ではなく、逆に「失礼します…」と寄り添っちゃう感覚でした。ここまできて迷ったり悩んだりすると、余計中途半端なモノになってしまいそうなので…。詞の基本的部分はOPと同様、「死」のイメージを極力排除した超個人視点な哀しい「恋の歌」です。歌いだしの「この声が~」は一番最初に思いついた事もあって個人的にとても気に入っていて、逢えない相手との「距離感」と伝えたい「想い」の両方を、やんわり感じさせてくれる…言い方は興醒めな感じですが、限られたスペースをより有効に効果的に使える「便利で優れた言葉」だと思っています。

「本当に逢いたいときは、心の中…」

 皆さんには心から逢いたいと思う人がいますか? そしてその人にすぐに逢えたりしますか? すごく単純なようで実はとても難しい事だったりするこの現実を、私なりに思い浮かべながら書いたのが、この詞です。目に見える力強さは無いけれど、決して途絶えることなく、音もなく振り続ける雪のように…。これまでと同様に、特別な言い回しや表現は使っていない本当にシンプルな歌詞だと思います。ま、私の貧租なボキャブラリーではこれが限界って話もあるんですけどね…(笑)それでも歌にした時を想像しながら、実際に歌いながら、一つ一つ言葉を選んでいきました。サビの最後を締めくくる「恋の華、胸にひとつ」は、OP同様「華」を使用したかった事もあって、収まりも良く綺麗にまとまる言葉を自分なりに考えた結果です。地味かもしれませんが、この一節は結構気に入っていたりします。前回のコメントにも書きましたが、湧き上がるように「上」に向かうOPとは反対に、このEDの詞は「下」に向かっているイメージなんですが、言葉だけを見ても特別それらしい表現は見当たりません。そのあたりは吉野さんの控えめな…囁くような歌い方のお陰でフォロー出来たと思っています。そしてサビにはメロと一緒に『恋華ren-ka』の歌詞も丸ごと配置したことでただ流れて消えてしまわないように、きっちり「楔」が打ち込めたような気がします。


【「『願ひ華』が出来るまで… その2」へ続く】

『天壌無窮』が出来るまで…

2008.02.04

 寒い日が続きますが、皆さん風邪などひかれていませんでしょうか? 先月の『恋華の宴』に参加したスタッフは、私を除いた全員が翌日、発熱・頭痛に苦しんだそうです。やっぱりとても寒かったし…しかも開場まで結構外で待ったのも原因なのかもしれませんね。皆さんも体調には気をつけて下さいませ。

 さて、今回は『幕末恋華・花柳剣士伝』のOP曲である『天壌無窮』が出来るまで…と銘打って、制作期間の事なんかをゆるく書いてみます。まとめきれてない事もあって大変読みづらい上に面白みもない文章だと思いますが、どうかご容赦下さい。と、その前にひとつお詫びを…。

 『幕末恋華・花柳剣士伝』本編のEDムービー内において、ED曲名の表記が間違っておりました。既にご存知かと思いますが、正しくは『願ひ華』です。このような形で大変恐縮ですが、改めてお詫び申し上げます。本当に申し訳御座いませんでした。

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○ 寺山Dからのオーダー

 制作にあたり寺山Dから頂いた指示は「前作の『恋華ren-ka』のイメージを残して…」の一言でした。ま、想像通りのストレートなオーダーに、私は何の不安も疑問も感じませんでした。登場人物の多くがお亡くなりになってしまう前作に比べ、「花柳」ではその大半が生存したまま物語が終わると聞いていたので、もうそれだけで随分イメージ付けが楽だと思ったんです。しかも前作とは違いOP/EDがそれぞれ別の曲というのも、私にとっては楽になる!…ハズだったんですけどね。世の中そんなに甘くなかったです。ちなみに『恋華ren-ka』の時は『野生の証明』という邦画の主題歌みたいなのにして下さい!…と既存曲名指しなオーダーをブリッジの某代表から貰ったんですが、思いっきりスルーしました。勿論私なりの理由があっての行動ですが、それでも指示を軽く無視する外注(注:2004年当時)なんて、今考えると結構イヤですね。その後も寺山Dとは顔を合わせる度に曲の方向性について意見の交換を続けたお陰で、イメージ構築が大変楽になりました。

○ 制作その1~作曲~

 その当時それなりに立て込んだスケジュールで作業を抱えていた事もあり、スイッチを切り替えるためにも、まっさらな頭で前作の曲を聴きなおす事から始めました。デモの段階からメロの変更も無く、すんなりと完成した『恋華ren-ka』は、私にとっては優等生的な「いい子ちゃん」。イメージを残すとは言ってもあまりにも近寄りすぎるのも危険だし、離れすぎてオーダーを無視する訳にもいきません。今回一番の課題になるのは、この『恋華ren-ka』との距離の保ち方でした。色々と情報を整理して自分なりにまとめた結果…

「少しの希望があり、前に進む力強さもある、ちょっと切ない曲」

言葉にすると微妙ですが、こんな感じでいこうと決めました。早速宮野さんの唄キーを確認して、そこからピアノで作曲作業…王道パターンにのっとり、サビからメロを口ずさみながらコードを当てて…Bメロ→Aメロとさかのぼって制作しました。この段階で思いついた言葉をはめ込んで、収まりが良かったり気に入ったモノはメモ書きして、後の作詞作業のベースとしました。「少しの希望」を出すために、ある程度リズムのしっかりした力強い曲をイメージしながら作業を進めましたが、気が付くと『恋華ren-ka』になってたりして…正直本当にきつかったです。「あれ? 途中までは違ってたのになぁ…(汗)」なんて事ばかりで、没になった「曲みたいなモノ」は軽く二桁に及びました。

 皆さんにもそれぞれ「この歌は良い!」っていう基準があると思います。勿論それは私にもあって…個人的に拘って大事にしているのは「歌いやすさ=覚えやすさ」だったりします。理想として「三回聞いてそれなりに覚えられるような」メロディーが、私の中にある「正解」です。その基準に基づき、余計な音符を省き、急激な上昇・下降に注意しながら、自然に流れてリスナーの耳に届くように…何度も歌いながら制作を進めた結果、完成したのが現在の『天壌無窮』です。「ある程度の勢い」を出すため細かい音符並びになった部分もありますが、その分サビの「壊れるほど~」やサビ終わりの「強く~」は、大きくゆったり目に歌って貰う事でより強く印象付ける事が出来たと思います。

○ 制作その2~作詞~

 作曲データをオーダーと一緒にアレンジャーさんに預けて、その後すぐに作詞を開始しました。世界観を図るために寺山Dから「キーワード」なんかも頂いたんですが、予想通り作曲の倍以上の時間を掛けてしまい、大きく作業予定を圧迫してしまいました。

 『恋華ren-ka』の詞は、「新撰組」という組織を私なりにイメージして書いたものです。勿論所々「個人」を連想させる言葉は出てきますが、それでもそのバックにはいつも「新撰組」という大きな影が存在してました。差別化を図るためにも、その大きく広い視点とは正反対に、「花柳」では狭く絞り込んで…完全なる「個人視点」で作詞を進めました。様々な思想や理念を持ち寄ってその形をなす「花柳館」には、良し悪しに関わらず「新撰組」のようなある程度の統一感は感じられなかったのも、その理由のひとつです。そしてやはり大きく違うところは「死」のイメージの有無。ストーリー上お亡くなりになるキャラはいるものの、それでも殆ど意識しないようにしました。

「逢えない人だけを想い、真っ直ぐに…」

OP/ED共に「花柳」の作詞イメージの基本部分はこんな感じになります。空を見上げただ一人、もう逢えない人への想いを歌う…とても哀しい「恋の歌」です。

「壊れるほど抱きしめて…」

本当に抱きしめたいのは「誓い」ではなく、他でもない、大切な想い人。抜けるような青空を覆いつくす程の、この叶わぬ願いを、僅かな希望と共に捧げる…。個人的には、こんな情景やイメージを持って描いた詞です。EDと大きく違うのは、何ていうか…気持ちの方向が「上か下か」という点で、静かに降り積もるようなEDに対して湧き上がるように「上」に向かっていく気持ちを、このOPでは出したかった訳です。勿論この辺の解釈は、聞き手の皆さんにお任せしたい部分もありますから、あくまで私個人のイメージとして捉えて貰えると嬉しいです。

 大切な言葉ほど真っ先に浮かんでくる事が多く、歌いだしの「さらば~」やサビ中「壊れるほど~」「この空を染めて~」等は早い段階でメロに乗せる事が出来ました。そして「幕末恋華」の「華」は、やっぱりどこかに使いたくて、より印象に残るようにサビ終わりに近い部分に配置しました。私にとってこの「華」という言葉は、「想い」や「心」の象徴みたいな部分もあって…そういう意味ではとても重くて大切な言葉です。歌いだしの「さらば~」は、早い段階からメロに乗せていましたが、実は最後まで使うかどうか、正直とても悩みました。私の年代的な問題なんですが、この歌いだしといえば真っ先に思い浮かぶ、某宇宙戦艦の主題歌のイメージがどうしても激しく強くて…。(笑)でも、最初から「別れ」をはっきり主張したかったので、「今回だけ」と言い訳のような理由をつけて採用しました。EDも同様ですが、サビに並ぶくらいこの歌いだしは重要で大切な部分だと思っています。

 通常作詞の段階で曲名も一緒に決めるんですが、ホントに時間も余裕もなくて…やっと「これだ!」と思って決めたモノが、実は某地上波アニメのED曲名とモロかぶりだった時は正直死にたくなりました。曲名だけではなく歌い手さんも同じだったので「もうだめ、無理っす」と泣きながらムービー担当のしんちんさんを巻き込んで、深夜の会社で辞書やら書籍を引っ掻き回したのもちょっと痛い思い出です。

○ 制作その3~レコーディング~

 アレンジャーさんからオケが上がってきて、次の作業は宮野さんに覚えてもらう為の資料作りです。カラオケ・ガイドメロ・仮歌・メロ譜・詞…これら一式を用意し提出して初めて、レコーディング当日を迎える事となります。いつもの如く時間もギリギリだったので、私自身が仮歌を歌いました。改めて自分で歌う事で、細かい修正部分も見つけられて一石二鳥…なんて呑気な事を言える場合では無い程、この時期は切羽詰まってました。そして2007年7月末日、都内スタジオにて歌収録となりました。

 皆さんご存知の通り、宮野さんは大変お忙しくて、夜もだいぶ遅い時間から収録が始まりました。前の現場でもびっちり喉を使ってるだろうし、大丈夫だろうか…なんて心配は、ご本人の登場と共に遥か彼方にぶっ飛んでしまいました。とにかく元気です、宮野さん。長身細身の外見からはちょっと想像も出来ない程パワフルな歌声、キチンと自分なりの解釈でこの曲を作り上げてくれたお陰で、収録はすんなり終了しました。「力強さ」と「甘さ」のバランスが、なんというか…聞いているこっちが照れてしまう程絶妙でした。歌でも演技でも同じですが、自分の声や歌声がどんなふうに相手に聞こえているかをキチンと意識出来ていて…そして何より歌が好きな方なんだなぁ…と思いました。自分の仮歌では表現出来なかった部分も、宮野さんのお陰で想像もしなかった新しい形に変化して、ただの文字だった詞に歌い手の気持ちが乗ることで、とてつもない重みを持って一気に「歌」に変化していく過程は、やっぱり何度体験しても感動してしまいます。数ある作業の中でも私が歌曲制作に惹かれる一番の理由は、こういう部分なのかもしれません。

 余談ですが、ブースに入って発声がてら某有名グループの某曲を歌っておられて…こちらが事前に伺っていた歌キーより遥かに上が素晴らしく綺麗に出ていて「あ、何だ、そこまでいけるんだ…言ってくれればなぁ…(笑)」とか大変惜しい気分にもなりましたが、大きな問題も無く収録を終える事が出来ました。さすがに終了時には「出し切りました…(疲)」とお疲れのご様子でしたが、最後まで笑顔の宮野さんは、やっぱりとても男前でした。

○ 総括~振り返って思うこと~

 「前の曲より良いと言われるモノを!」と、力が入っていたのも事実です。そんなふうに意識すればする程『恋華ren-ka』に囚われて身動きが取れなくなって…もがけばもがくほど深みに嵌る悪循環。残り少ない時間と焦り、寺山Dに負けないくらいネガティブ思考の私はすっかり出口を見失い、ピアノの前で固まる日々が何日も続きました。まるで親の仇のように『恋華ren-ka』を敵視するような時期もあり、その歪んだ思考が制作の大きな妨げになっていたと思います。どちらも私にとっては大切な子供達。3年経っているとはいえ、同じ人間の手から、同じ鍵盤の上で生まれた兄弟みたいなこの曲たちを、そんなふうに捉えること自体間違っていたのかもしれません。そう開き直ってからやっと、思うように作業が進んでいきました。曲の構成も作詞の言葉も…『恋華ren-ka』により近くすることで、いろんな邪念みたいなモノが薄れていったように思いました。結局「距離感」の見極めを誤ったしまった訳で…ま、このあたりを突き詰めていくと、もっと深くてドロドロしたいろんなモノが明らかになってしまいそうなので辞めておきます。作詞に関しても、一歩引いてそれなりの客観的視点で書けた『恋華ren-ka』に比べ、この『天壌無窮』は、あまりにも自分の「素」の部分が何の整形もされずダイレクトに反映されているようで…正直今でも胸の奥が痛む事があります。

「前のOPの方がよかった」

そういう意見や感想があるのも認識していますが、どのような内容でも、そんなふうにボールを投げ返してくれるのはとても嬉しく、本当に感謝しています。「好きの反対は嫌いではなく、無関心」。意見も感想も貰えなくなったら、やっぱりとても哀しいです。ただ「花柳剣士伝」の世界と登場人物たちを想いながら書ききったこの曲に、私自身、嘘偽りや後悔は微塵もありません。きっとこの先いつまでも、この曲を聴くたびに鈍い痛みと共に苦しかった時間を思い出すことでしょうが、それでも、私にとって大切な1曲になったのは間違いありません。

恋華の宴・寿を終えて…

2008.01.22

まず最初に…。
寒い中足を運んで頂いたファンの皆様と、キャスト・スタッフをはじめとする関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。本当に有り難う御座いました。寺山Dと加藤女史による細かいレポにあるように、大変充実した楽しいイベントでした。

会場を包み込むファンの皆様の熱い声援の中、私はぼんやりと制作に費やした日々の事を思い出していました。苦しい事・悲しい事、意識が遠のいてしまう程洒落にならないスケジュールに絶望した事も全て。このイベントの終了でやっと…私の中でそれら全てが「思い出」になった気がしました。

我が子の成長に目を細める親の気持ち…とで言いましょうか。少しだけ気持ちが軽くなって、でも、どこかすこし寂しくて…そんな気分でED曲「願ひ華」を聴いていました。私が担当した「幕末恋華」シリーズの歌曲の中で、個人的に一番難しい曲だと思う「願ひ華」を、吉野さんはしっかりと歌い上げてくれました。レコーディングからこのイベントまで、随分練習してくれたのが手に取るように分かり本当に感激でした。OPの宮野さんも、ライブならではのワザを盛り込んで最後まで力強く歌い上げてくれて…レコーディングの時も感じましたが、歌う事の難しさや怖さを知ってなお、この人は歌う事が好きな人なんだなぁ…と改めて実感させて頂きました。お二人とも本当にお疲れ様でした。

イベントパンフをご覧の方には既にばれちゃってますが、私、今年の夏で40歳になります。この先いったい何曲の作詞・作曲が出来るか正直想像も出来ませんが、「幕末恋華」シリーズの制作に参加出来た事は、ファンの皆様の暖かい拍手と一緒にいつまでも忘れる事は無いと思います。いい経験をさせて頂きました、本当に心から感謝致します。

と、一気に「引退」みたいな空気にしておいてなんですが、これからもファンの皆様に向けて不器用ながら全力で真っ直ぐに…心と記憶に残る作品を作り続けていきたいと思いますので、どうか引き続き暖かい叱咤激励をお願い申し上げます。

本当に皆様、お疲れ様でした。
そして本当に有り難う御座いました。

ご挨拶

2007.12.18

この度は「幕末恋華・花柳剣士伝」及びその関連商品等をお買い上げ頂き、誠に有り難う御座います。

3年待ってくれた皆様にも、今作から興味を持ってくれた皆様にも、また、制作にあたりご協力頂いた関係者の皆様にも、心からお礼申し上げます。

前作に引き続き、OP/ED作詞作曲及びBGM等を担当させて頂きました浅乃一です。

大人の事情とかシガラミとか、そういうのを気にしないで好きな事を書いて下さい…と寺山Dからの漢前なオーダーを信じて書いておりますが、ホントに大丈夫なんでしょうか?(笑)とりあえず、今後は担当させて頂いた歌曲やBGM等の音楽周りの事をだらだら書いていこうと思っておりますので、お暇な時にでも読んで頂けると、とても嬉しいです。

「EDのサビはワザとなのか?」とか「どんなオーダーであのOPになったのか」とか収録の時のお話とか…そのへんについても今後、可能な限りコメントとして掲載させて頂くつもりですので、どうぞ宜しくお願い致します。

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